子子子子日記 -koneko no nikki-

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リベンジ・マギア クリスマスSS『はじめてのクリスマス』

 


 私――フランセス・フィッツロイにとって、クリスマスは喜ばしいイベントではない。
 それはずっと昔に、少し苦い思い出があるからだ。


 幼い頃に一度だけ、友人からクリスマスパーティーに誘われたことがある。
 当時の私は無邪気に誘いに応じ、プレゼントを用意して友人の家を訪ねた。

 プレゼント交換のために用意したそれは、メイドのラーラにも手伝ってもらって選んだとっておきのものだった。
 ラーラも「きっとご学友のみなさまも喜んでくれますよ!」と背中を押してくれたことを思い返す。

 こういったパーティーに呼ばれるのは初めてのことで、とっても緊張したけれど。
 ラーラが言うようにこのプレゼントを渡した時、誰かが喜んでくれるのならば――
 不安と緊張が入り混じった想いを胸に抱え、私は玄関の呼び鈴を鳴らした。

 

 だけど――

 


「フィ、フィッツロイ様!? 本日はどうされたのですか……?」 

 


 玄関の扉を開けたのは友人の母親で私の姿を見た瞬間、彼女は血相を変えておそるおそる尋ねる。
 私は予想外の反応に困惑しつつも、今日は友人からパーティーに誘われて訪問した旨を告げた。

 


「も、申し訳ございません! うちの娘が大変なご無礼を……!」

 


 事情を説明すると彼女は納得がいったのか、深々と頭を下げて謝罪する。
 どうやら娘が友人を招くということは聞いていたが、その中に私が含まれていることは聞いていないようだった。

 


「こんなみすぼらしい家にお招きしてしまい、なんとお詫びをしてらよいのか……娘にはわたしから言い聞かせておきますので何卒、何卒ご容赦を」

 


 深々と頭を下げて、母親は懇願するかのように謝罪する。
 何も悪いことなんてしていないのに、どうして彼女は必死に謝っているのか?
 幼い私には理解が及ばなかったが、それでも自分がここにいるべきではないと理解した。

 


「あ、あの……せめて、プレゼントだけでも――」

 


 それでもせっかく用意したプレゼントは渡したくて遠慮気味に差し出すが、

 


「めっそうもございません! 私どもでは到底、フィッツロイ様の贈り物に釣り合う品など用意できませんので……」

 


 怯えるような表情で断られると、私はもう何も言えなかった。
 悲しい気持ちで思わず視界が涙で滲んでいくが、そっと目を伏せて堪える。

 


「いいえ、お気になさらないでください。こちらこそ突然の訪問で驚かせてしまい、申し訳ありませんでした。本日はお暇させて頂きます。エミリーにはよろしくお伝えください」

 


 顔を上げて必死に笑顔を取り繕うと、こちらも謝罪の言葉を口にする。
 お父様に連れられて社交界へ行った時のように、年齢に不相応な言葉遣いをすると彼女はようやく頭を上げた。

 

 私は踵を返して外に待たせていた馬車へと向かうが、その瞬間――
 玄関からこちらの様子を窺うように顔を出していた友人の姿が目に入る。

 パーティーに参加できなくなってしまったことに内心で詫びつつも、私は彼女の家を後にすることしかできなかった。

 

 


「あれ――お嬢様、本日はご学友のパーティーに参加したのではないのですか?」

 


 屋敷に帰ると、私の姿を見つけたラーラが慌てて駆け寄って来た。

 


「…………」

「……お嬢様、何かあったのですか?」

「…………」

「よろしければ、ララにお聞かせくださいませんか?」

 


 顔を俯かせ黙ったしまった私を見て、ラーラは優しく声をかけてくれる。
 彼女の温かな気遣いに触れ、今まで堪えていた涙がとめどなく溢れてきた。

 


「そうだったんですね……お嬢様、お辛かったでしょう」

 


 嗚咽混じりに事情を説明すると、ラーラは背中をさすりながら話を聞いてくれた。
 最後まで言い終えるとハンカチを取り出して、ぐちゃぐちゃに泣き腫らした私の顔を優しく拭ってくれる。

 


「ララも気づいてあげられなくて申し訳ありません……お嬢様と一緒にプレゼントを選ぶのが楽しくて、そこまで考えていませんでした」

「大丈夫、気にしないで。ララは悪くないわ」

 


 しょんぼりと肩を落とすラーラに、私はゆっくりと首を横に振る。
 彼女は私のわがままに付き合ってくれただけで何の非もない。

 

 だけど、こうして私を慮ってくれる姿を目の当たりにすると、先程まで悲しみが支配していた心に温かな感情が満ちていくのが分かる。

 


「ねえ、ラーラ。良かったら……このプレゼント、もらってくれる?」

「えぇ!? よ、よろしいんですか!? だって、これは――」

 


 ずっと胸に抱いていたプレゼントを差し出すと、ラーラは驚いたように声を上げる。

 


「ううん、いいの。このプレゼントはラーラが選んでくれたものだから……もらってくれると、私も嬉しいわ」

 


 私が「それに……ラーラがもらってくれないと、私のプレゼントになってしまうから」とつけ加えるとラーラは、

 


「お嬢様……分かりました、ではありがたく頂戴します。一生大事にしますから!」

 


 少し躊躇ったあとに、おずおずとプレゼントを受け取ってくれた。
 プレゼントを抱きしめると、ラーラは力強く宣言をする。

 


「一生って……ラーラ、流石に大げさよ」

「い、いえ! 本当に本当に――ずっと、大事にしますのでっ!」

 


 大仰な言い回しにクスッと笑みを零すと、ラーラは嬉しそうに言葉を続ける。

 


「あ、そうだ――お嬢様、少し待っていてもらえませんか?」

 


 ラーラは思い出したように断りを入れると、慌てて走り去って行く。

 そして、数分後。
 小走りで戻ってきたラーラは、先ほど私が渡したプレゼントとは違う包みを持っていた。

 


「あの……お返しってわけじゃないですけど――よろしければ、受け取ってください!」

「えっと、これは……?」

 


 ラーラは緊張で強張る顔で、ずいっとそれを差し出してきた。
 急な出来事に困惑しつつもそれを受け取ると、開封してもいいか尋ねる。
 ラーラがコクンと頷くと、包みを開けるが――

 


「これは――」

 


 プレゼントの包みを開けると、その中からは一つのぬいぐるみが出てきた。
 可愛らしい犬のぬいぐるみだったが、私には見覚えがあった。

 


「えへへ……はい、お嬢様と一緒に選んだプレゼントと色違いのぬいぐるみです。実はお嬢様が気に入っていたようなので、お嬢様へのプレゼント用に買ってきちゃいました」

「ラーラ……」

 


 はにかみながら答えるラーラに、私は思わず言葉を失ってしまう。
 彼女が言うように私が用意したプレゼントは犬のぬいぐるみで、一緒にプレゼントを選んだ際に私がこれを気に入っていたのを覚えていてくれたのだった。

 


「従者からの贈り物なんて嫌でしょうけど……受け取ってもらえると嬉しいです」

「いいえ、私とっても嬉しいわ! 一生大切にするから!!」

「えぇぇ――ッ!? い、一生なんて大げさな……!」

 


 苦笑交じりに続けるラーラに、私は素直な気持ちを告げる。
 ラーラもパッと表情を明るくして、私たちはお互いに笑い合った。

 


「ふふふっ……じゃあ、私とラーラでお揃いね」

「お、お、お、お、お、お揃いいぃぃぃ!? お嬢様と、ララが……ッ!?」

「ええ、お互い大事にしましょうね?」

「は、はひぃぃぃ……大事にしましゅ……」

 


 悪戯っぽく笑いかけると、ラーラの顔は一気に紅潮していく。
 そんな彼女の反応がおかしくて、思わず笑いを漏らしてしまった。

 

 

 これが私にとって、クリスマスの思い出。
 
 そんな一件があってから、クリスマスはずっと家族と一緒に過ごしてきた。
 もしくは貴族同士のパーティーに出席し、フィッツロイ家の人間としての役目を果たす――

 セイレム魔女学園の入学を機に欧州を離れるまで、そんな生活が続いていた。

 しかし――

 

 

「え――クリスマスパーティー、ですの……?」

 

 それはクリスマスの一週間前のこと。
 私はハルナに呼び止められた。

 


「ああ、そうだ。僕は別にクリスチャンではないので関係ないが、鴨女の奴がうるさくてな……」

 


 ハルナは大きなため息と共に、事情を説明してくれた。
 それを聞くとカモメが駄々をこねている光景が頭に浮かび、思わず笑みを浮かべてしまう。

 


「しかし、ティチュもどうやら乗り気らしい。だから、料理はそれなりに期待できるはずだ。というわけで――もし予定が空いていたらお前もどうだ?」
 

 

 フォローを入れるようにつけ加えると、ハルナは何故か視線を逸らしてしまう。

 


「まあ、その……なんだ。どうせやるのならば、僕もお前が来てくれた方が……嬉しい、というか……少しは楽しめそう、というか――」

 


 ハルナは消え入るような声で、ボソボソと言葉を続ける。
 その顔は朱が僅かに赤らんでいて、ハルナなりに私を誘ってくれたことが何よりも嬉しかった。

 


「ええ、もちろん行きますわ! 絶対に行きますわッ!!」

「そ、そうか……? では、当日のスケジュールだが――」

 


 嬉々として声を上げる私を見て、ハルナは驚いたように目を丸くする。
 そしてどこか安堵したようにフッと笑みを浮かべると、パーティーに関して説明をしてくれた。

 

 

 

「ふふふっ……楽しみですわ! とっても楽しみですわ!!」


 ハルナと分かれて部屋に帰ると、私は上機嫌で呟きを漏らす。
 思えばこれが初めて友人と過ごすクリスマスであり、彼らとは特権貴族としてではなく対等な友人として接することができる。

 私にとってそれは何よりも嬉しいことで、一週間後のクリスマスが今から待ち遠しかった。


「ねえ、ラーラ……わたし、お友達と一緒にパーティーに出るの。はじめてのことで緊張してるけど……でも、きっと大丈夫。だって、貴方がついていてくれるから」


 あの時からずっと、部屋に飾っていたぬいぐるみに声をかける。

 それは欧州を離れ魔女学園に来てもなお持ち続けたもので、今は遠く離れているラーラの代わりでもあった。

 いつも近くで支えてくれていた彼女の姿はもうないけれども――

 

 あの日、彼女がプレゼントと一緒にくれた温かな想いを胸に。

 私はこれからも、頑張り続けることを誓うのだった。

 

〈了〉 

 

 

 

 

 

というわけで、突発的なクリスマスSSでした!

少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。

 

12/29発売の『魔術破りのリベンジ・マギア3.はぐれ陰陽師の越境魔術』と12/28連載開始のコミック版『魔術破りのリベンジ・マギア』もよろしくお願いします……!!

作品紹介
http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/lineup/detail/762.html 
Amazon
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4798616044?ie=UTF8&tag=hobbyjapan01-22&camp=247&linkCode=xm2&creativeASIN=4798616044 
試読
http://r.binb.jp/epm/e1_66653_20122017140736/ 

 

 

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